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建築家リフォームのすすめ

  • 昨今、住宅のリフォームはとても盛んになっています。リフォーム専門会社を始め、不動産会社やハウスメーカー、住設メーカー、工務店、ホームセンターから家電量販店まで、様々な業者が参入し、リフォーム市場は活況を呈しています。
  • 今でこそ中古住宅の価値が見直され、リフォームに魅力を感じる人も増えていますが、私が設計事務所を始めた当時は、リフォームと言えば壁紙の貼り替えや設備交換などの修繕がほとんどで、築30年も経てば建て替えられる住宅が少なくありませんでした。
  • そもそも私はリフォーム専業で始めたわけではなく、かつては著名な建築家の事務所に在籍し、オフィスや公共施設など大規模な建物の設計監理に携わっていました。独立後は住宅設計を中心に活動を始めましたが、たまたま二件目に依頼を受けたのが、敷地が道路に面していないお宅のご相談でした。当初は建替えようと何度も役所と協議しましたが、敷地を買い足す以外にはどうしても認めてもらえませんでした。そこで構造だけ残して内外装をやり替える「スケルトンリフォーム」を初めて行ないました。しかし築40年の構造は増改築を繰り返されて複雑に入り組んでいたため、絡んだ糸を解くように手探りで設計をまとめました。工事が始まってからも、雨漏りやシロアリ被害の跡など、日替わりで新たな問題が表れ、ほぼ毎日現場に張り付いて監理を行なうことになりました。それでも何とか建て主や工務店の理解と協力のおかげで無事完成し、そのお宅が雑誌やテレビで紹介されたのをきっかけに、あのテレビ番組「大改造!劇的ビフォーアフター」からも出演のオファーをいただきました。
  • その後も番組にはたびたび出演させていただき、そのおかげでリフォーム設計の依頼がたくさん舞い込むようになりました。リフォームというカテゴリーでは、木造に限らず、鉄筋コンクリート造や鉄骨造など、様々な構造や工法の建物を扱わなければなりません。そんな時は、以前勤めていた設計事務所での様々な設計監理の経験がとても役に立ちました。つまりリフォームの設計では、今そこにある問題を分析し、解決を図りながらデザインする能力が求められるため、新築以上にたくさんの知識とノウハウが必要なのです。しかも建築だけではなく、インテリアや雑貨、暮らしの知識など、より生活に密着した情報も持ち合わせていなければ、満足のいくリフォームができないことが分かりました。
  • つまり、リフォームこそ建築家が必要な仕事だと痛感したのです。さまざまな不安、不便、不満、不具合を解消し、限られた予算で最大の成果を得るには、きちんとした計画が不可欠です。そのためにも我々のアイデアは、決して高い買い物ではありません。リフォームを思い立ったら、ぜひ一度相談してみて下さい。

リフォームは人生を豊かにする

  • 2010年の統計によると、我が国の世帯数は約5195万世帯に対して、住宅は戸建てやマンションを含めて約5760万戸が存在しています。少子高齢化で今後も人口は減少傾向にあるため、量的にはもはや新たに住宅を建てる必然性はなくなりました。もちろん引き続き建て替え需要はあるにせよ、住宅産業の中心が今後リフォームに移ることは間違いないでしょう。
  • また、住まいに求められる機能や性能もここ20年で大きく変化しました。1995年の阪神大震災では多くのビルや住宅が倒壊し、耐震性に対する要求がより高くなりました。2011年の東日本大震災による原発事故に端を発した深刻なエネルギー問題は、住まいの省エネルギー化を見直すきっかけとなりました。そして現在、長引く景気の低迷と超高齢化社会への不安から、家族の形態やライフスタイルの変化に対応した、新たな住まい方が求められつつあります。
  • さらに、特に若い世代では、価値観の変化も顕著です。例えばジーンズの新品にダメージ加工を施すなど、「新しい=カッコいい」という価値観は薄れ、むしろ使い古された感じやビンテージに価値を感じるようになっています。和風ブームもそのひとつで、伝統を再評価することで、日本人としてのアイデンティティを取り戻しているようにも思われます。
  • そのような社会の変化に対して、既存の住宅はもはや表面的な改装ではとても対応しきれなくなっています。建てることに精一杯で、暮らすことを考える余裕がなかった「家」は、リフォームによって「住まい」へと生まれ変わることができるのです。誰かのためではなく、自分のために住まいをカスタマイズすることは、暮らしを、そして人生を豊かにすることに、ようやくみんなが気付き始めました。
  • 既存のストックを活用し、古いものを生かしながら、現代の住まい方にマッチした「住まい」に生まれ変わらせる。そんな積極的なリフォームが、今後も増えてくるのは間違いないでしょう。

本当に住みやすいのは暮らしに合った家

  • ひとくちに「住みやすい家」と言っても、人によってその捉え方は様々です。環境やライフスタイルによって「住みやすさ」は異なります。また、建てた当初は住みやすいと感じていた家も、家族構成や周辺環境の変化で住みにくくなったと感じている人も少なくありません。
  • 経済が右肩上がりの時に建てられた家は、建てることに精一杯で、暮らすことが十分に考えられていなかったように思います。家族の人数に合わせて個室を設け、めったにない来客用にと立派な応接室まで設けていました。家族がたくさんいる頃はそれでも良かったのですが、いざ子供が独立し親も他界すると、部屋を持て余してしまい、そんな状況にも関わらず、物にあふれた狭いLDKでそのまま暮らしているのが実情です。このように、現代の住まいは家族構成やライフスタイルの変化に対応しきれていないものがほとんどです。
  • 一方で、既存住宅の中には耐震性や断熱性が不足しているものも数多く存在しています。そのため、リフォームではまず、この基本性能を向上することも重要です。耐震性を高めることで、万が一の震災にも安心して暮らすことができる上に、断熱性や耐久性が高まれば、光熱費やライフサイクルコストを抑えることができます。これにより安心感や満足度が高まり、住みやすさにつながります。
  • つまり、家に暮らしを合わせるのではなく、家族の暮らしに家をフィットさせることが、「住みやすい家」の条件と言えるのです。

リフォームに適した家の3つの条件

  • 既存の住宅を生かしたいからと言っても、すべての家がリフォームに向いているわけではありません。残念ながら、建て替えたほうが良い家も少なからず存在します。単に古いからダメと言うわけではなく、建物の価値や劣化状況など、様々な条件を考慮して、建替えかリフォームを選択しなければなりません。
  • そこで私は、リフォームの依頼を受ける前に3つの条件をお話ししています。「リフォームの3か条」、つまりリフォームをしたほうが良い家の条件です。
  • 1つめは法的な条件です。建築基準法では一部の例外を除いて、敷地が道路に2m以上接していないと建物は建てられません。住宅密集地などでは、これが確保できずに建替えができないことがあります(再建築不可)。また、家が建った後に法令が改正されたことで、建替えようとしても同じ広さや階数が確保できないことも少なくありません(既存不適格)。他にも、借地などで建替えが認められない場合もあります。この場合は必然的にリフォームを選択することになるでしょう。
  • 2つめは心理的な条件です。例えば古民家や歴史的建造物など、残すべき価値がある場合です。そこまでじゃなくても、家族の歴史や思い入れが深い家の場合も当てはまります。建替えではなくリフォームで、そうしいた思い出のある家を引き継いで頂きたいものです。
  • 3つめは建築的な条件です。雨漏りやひび割れ等の劣化が少なく、屋根、外壁、構造など、活かせる既存部分が多ければ、建て替えに比べて費用対効果の高いリフォームが実現できます。逆に著しく耐震性が不足していたり劣化が激しい場合は、建替えと同等かそれ以上のコストがかかることも少なくありません。構造的には1981年以降の新耐震基準に則った構造かどうかがひとつの判断基準です。
  • これらの条件のいずれかに当てはまる場合は、リフォームをお勧めしています。逆にどれにも当てはまらず、単に予算的な制約だけでリフォームをしようとしている人には、建替えや住み替えも含めて再度ご検討されることをおすすめしています。
  • リフォームでは、想定外の費用がかかることもしばしばあります。計画を進める前に、リフォームの意義を再確認することが成功のカギかも知れません。

何がどうちがう?長持ちする家、しない家

  • 日本の住宅の平均寿命は26年と言われています。欧米に比べて短いのは、日本人の新築指向と思われていますが、実は新築を優遇する国の施策と税制に問題があります。建物の資産価値は年間20%ずつ目減りし、約20年で中古住宅の価値はゼロになります。つまり、いくら住宅に手をかけても何の価値も認められないなら、使い捨てて建替えようと思うのは無理もありません。
  • しかし昨今の少子高齢化と長引くデフレの影響で、将来への不安や雇用の不安定が深刻化し、世代を超えて住まいを長く使い続けたいというニーズが高まっています。
  • とは言え、どんな家でも手入れをすれば長持ちするというわけではありません。そもそも耐久性の低い材料で造られた家は、いくら手をかけたところで、それ以上の耐久性は得られません。外装や内装の仕上げ材はリフォームで取り替えることも可能ですが、基礎や構造の耐久性を上げるには、むしろ建替えた方が容易なことも少なくありません。
  • また、いわゆる注文住宅は究極のオーダーメード商品のため、他の住まい手からすると魅力を感じないばかりか、とても住みにくいものとなります。その結果、いくら頑丈で高価な材料を使っていても、建替えられてしまう運命を辿ってしまいます。
  • では、どんな家が長持ちするのでしょうか? 数多くのリフォームを手掛けた経験でわかったことは、「シンプルな家」が一番長持ちするということです。斬新なデザインや特殊な工法で建てられた家は、リフォームの足かせになることが少なくないのです。
  • それに比べて伝統的な三尺(約91cm)モジュールで、架構(柱、梁、床などの基本構造)と間取りが一致している家は架構が分かりやすいため、リフォームしやすくなります。また、主要な建材はすべてこのモジュールに則って生産されているので、無駄が出にくくコストも抑えられます。逆に言うと、リフォームでは、この架構と間取りを一致させることで、将来の変化にも対応できる住まいにすることができます。
  • 住まいは人とともに変化するものです。取り替えられる部分とそうでない部分を明確に区分し、子や孫、あるいは他の住まい手もがリフォームしやすくすることで、長持ちする家を実現することができるのです。

リフォームで手に入れる自分らしい住まい

  • 「家は3回建てないと満足できない」とよく言われます。暮らして初めてわかる不便や不具合の多さは、その家での暮らしをきちんとイメージしきれていなかった証拠かもしれません。ましてや初めて住む場所となると、その土地の環境や生活習慣など、新しい暮らしに慣れるまでにしばらく時間が掛かるのはやむを得ません。30年サイクルで建替えられた幸せな時代なら、3回建てて満足するという方法もありますが、それではお金がいくらあっても足りません。
  • もっといい方法があります。それがリフォームです。
  • リフォームの最大のメリットは、すでにそこに建物が建っていることです。今まで暮らしていた人なら周辺環境を熟知しているので、日当たりの良い場所や心地良い風の流れを体で覚えています。家の長所や短所も一番理解しているので、要望がより明確になります。中古住宅を購入した人でも、すでに空間があるので、実物大モデルで具体的な生活をイメージしながらのプランニングが可能です。
  • 満足度で考えると、新築住宅の計画は「プラス」からのスタートです。夢を抱いて始めた家づくりが、徐々に現実となるに連れて、様々な制約から満足度が下がっていきます。最終的に妥協で終わった時、夢とのギャップが不満となって現われてきます。
  • 一方、リフォームの計画は「マイナス」からのスタートです。様々な不満や不便、不具合が改善されることで、徐々に満足度が上がっていきます。アイデア次第でゼロを超えてプラスにすることができるので、結果的に満足度の高い住まいが実現できるのです。
  • つまり、3回建てなくても、アイデアと工夫次第で自分らしい住まいが手に入れられる、それがリフォームなのです。